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相続を考えた特別方式遺言と各遺言方式の比較

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はじめての相続《民法解説》相続を考えた特別方式遺言と各遺言方式の比較

相続の現場では、自筆証書遺言、公正証書遺言のどちらかが多く利用されています。しかし、これら通常の方式では遺言を作る時間や環境がない、という場面があります。

たとえば、重い病気で死期が迫っている、船舶事故で遭難している、感染症によって隔離されている、外部との連絡が極めて困難といった特殊な状況です。

そのような場合でも、本人の最終意思をできる限り尊重するため、民法には「特別方式遺言」という制度があります。もっとも、特別方式遺言は一般的な遺言とは大きく異なり、厳格な条件や家庭裁判所の確認などが必要になる場合があります。

特別方式遺言とは

民法では、遺言の方式を大きく「普通方式遺言」と「特別方式遺言」に分けています。通常利用されるのは普通方式遺言です。普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があります。

これに対し、特別方式遺言は「普通の方式による遺言をすることが困難な緊急時」に限って認められる例外的制度です。つまり、特別方式遺言は簡単な遺言ではありません。
むしろ、今この状況でなければ、本来は普通方式で遺言を作るべきである前提のもとに存在する制度です。

特別方式遺言の種類

民法には、次の4種類の特別方式遺言があります。

一般危急時遺言

民法976条(死亡の危急に迫った者の遺言)
1. 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
2. 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。
3. 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。
4. 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5. 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

病気その他の事情により、死亡の危険が迫っている場合に利用される方式です。証人3人以上の立会いが必要であり、遺言者はそのうち一人に口頭で遺言内容を伝えます。その内容を証人が筆記し、読み聞かせを行い、各証人が署名押印します。
さらに、この遺言は作成後20日以内に家庭裁判所の確認を受けなければ効力を失います。つまり、かなり厳格な制度です。

伝染病隔離者遺言

民法977条(伝染病隔離者の遺言)
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

感染症などによって行政処分により隔離された人が利用する方式です。警察官1人と証人1人以上の立会いが必要とされています。現在の法律でも制度自体は存在しています。

ただし、現代では感染症対策や通信環境も大きく変わっているため、実務上どれほど利用されるかは限定的でしょう。

在船者遺言

民法978条(在船者の遺言)
船舶中に在る者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

船舶中にいる者が利用できる方式です。船長または事務員1人、さらに証人2人以上の立会いが必要です。

これも現代では利用頻度はかなり低い制度ですが、海上という特殊事情を考慮した制度として民法に残されています。

遭難船舶危急時遺言

民法979条(船舶遭難者の遺言)
1. 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。
2. 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。
3. 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
4. 第976条第5項の規定は、前項の場合について準用する。

船舶遭難などによって死亡の危険が迫っている場合の制度です。証人2人以上の立会いで口頭による遺言が可能とされています。通常の危急時遺言と同様、家庭裁判所の確認が必要になります。

現在では実際に利用される場面はかなり少ないと思われますが、極限状態でも遺言を残せるようにする制度として存在しています。

なぜ特別方式遺言は厳格なのか

特別方式遺言は、普通方式遺言と比較すると、本人確認、真意確認、偽造防止が難しくなります。

たとえば公正証書遺言であれば、公証人が関与します。しかし危急時遺言では、公証人が現場に来られないこともあります。そのため、証人を多数必要とすること、家庭裁判所の確認を必要とすること、厳格な手続きを要求することで遺言の信用性を担保しているのです。

自筆証書遺言との比較

自筆証書遺言は自分だけで作れる

自筆証書遺言は、本人が全文・日付・氏名を自書し、押印することで作成できます。証人も不要です。費用もほとんどかからず、自宅で作成できるため、非常に利用しやすい方式です。

もっとも、記載ミスや日付の不備、内容の曖昧さ、保管中の紛失などの問題が起こることがあります。また、法務局保管制度を利用しない場合には、原則として家庭裁判所の検認手続も必要になります。

特別方式遺言は緊急避難的制度

これに対し、特別方式遺言は「通常の遺言作成が不可能な状況」でのみ認められます。

つまり、自筆証書遺言を作る余裕すらないという状態が前提になっているのです。そのため、一般の相続対策として最初から特別方式遺言を選ぶことは通常ありません。

公正証書遺言との比較

公正証書遺言は最も安全性が高い

相続実務では、公正証書遺言が最も安全性が高いと考えられています。公証人が関与し、本人確認や意思確認、内容確認を行うため、無効になるリスクが低いからです。さらに、原本は公証役場で保管されます。紛失や改ざんの危険も限りなく小さいわけです。

特別方式遺言は例外的制度

一方、特別方式遺言は、公証役場へ行けない、公証人を呼べない、時間的余裕がないという特殊事情がある場合の制度です。
つまり、公正証書遺言の代替というより、最後の手段に近い制度といえます。

現代の相続実務ではどう考えられているか

現在の相続実務では、公正証書遺言とか、法務局保管制度を利用した自筆証書遺言が中心です。
特別方式遺言は制度としては存在していますが、利用頻度は高くありません。

しかし、制度が存在すること自体には大きな意味があります。
人がどのような状況に置かれても、最後の意思表示をできる限り尊重しようとするのが、民法の考え方だからです。

相続では、本人はこう考えていたはずだという争いが起こることがあります。そのため、法律は、極限状態であっても可能な限り本人の意思を残せるよう制度を整えています。

もっとも、危急時になってから慌てて遺言を考えると、利用できる制度が限られたり、相続人間で争いになったりすることがあります。

その意味では、元気なうちに、誰に何を承継させたいのか、相続人間で争いが起きないか、不動産をどうするかを整理し、通常の方式で遺言を準備しておくことが、もっとも重要な相続対策といえるでしょう。

本記事作成美馬克康司法書士・行政書士

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