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相続の承認・放棄を選ぶときに知っておくべきこと

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はじめての相続《民法解説》相続の承認・放棄を選ぶときに知っておくべきこと

相続というのは、亡くなった方の財産や借金などを引き継ぐ行為です。しかし、相続人が必ずしも大人で判断力があるとは限りません。
たとえば、被相続人の子どもがまだ小さい未成年者だったり、認知症の方や成年後見制度を利用している方が相続人となるケースも少なくありません。

そのような場合に、相続の承認や放棄をどのように行えばよいのか、そして一度選んだ承認や放棄を後から取り消すことができるのかを解説します。

無能力者が相続人になった場合

法律上、「単独で有効な意思表示をする能力がない人」を行為能力のない者(無能力者)としています。これには主に以下の3つのケースがあります。

未成年者

未成年者が相続人になった場合、本人が単独で相続を承認したり放棄したりすることはできません。この場合は、親権者(または未成年後見人)が代わって手続きを行う必要があります。
また、親が自らも相続人である場合など、利益が衝突するおそれがあるときは、家庭裁判所に「特別代理人」を選任してもらうことになります。

たとえば、父が亡くなり、母と子が相続人になった場合、子の相続放棄を母が代わりに行うのは利益相反になります。母が放棄させることで自分の取り分が増えるからです。この場合は特別代理人の申立てが必要になります。

民法824条
親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

成年被後見人

判断能力が十分でない人が相続人になった場合、後見人が代わって承認や放棄を行います。
ただし、後見人は被後見人の財産に重大な影響を与える行為を行うため、必ず家庭裁判所の許可を得なければなりません(民法859条)。

後見制度の目的は本人の保護にあるため、軽率な放棄や承認を防ぐために裁判所が関与します。特に相続放棄の場合、誤ってプラス財産まで失うリスクがあるため、許可手続きは慎重に審理されます。

民法859条
1. 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
2. 第824条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。

被保佐人・被補助人

判断能力が一部不十分な方(被保佐人・被補助人)の場合は、保佐人や補助人の同意を得て相続の意思表示を行うことができます。つまり、自分一人ではできませんが、支援者の同意があれば有効に承認や放棄をすることが可能です。

このように、行為能力のない方の相続は「代理」または「同意」を通して行われます。相続というのは法律行為であり、本人の判断能力がない場合には、必ず法的な補助を受ける必要があるのです。

無能力者の熟慮期間

相続の承認・放棄には3か月の熟慮期間がありますが、無能力者の場合は特別な扱いがされます。
民法917条では、熟慮期間の起算点は、代理人(または後見人)が相続開始を知ったときから始まると定められています。

たとえば、認知症の方が相続人となった場合、その方自身が、亡くなったことを知ることは難しいため、実際に手続きを行う後見人が相続が始まったと知った時点から3か月がスタートします。
このように、実際の判断を行う立場の人を基準にして、法律上の期限を数えるようになっています。

民法917条
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

承認・放棄はやり直せるのか

「一度放棄してしまったけれど、やはり承認したい」「借金があると思って放棄したが、実は財産が多かった」

そんな相談を受けることがありますが、結論からいうと原則として承認・放棄はやり直しできません。
一度有効に行った意思表示は撤回できない、と民法919条が定めています。

民法919条
1. 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
2. 前項の規定は、第1編及び前編の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。
3. 前項の取消権は、追認をすることができる時から6箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様とする。
4. 第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

撤回・取消しができる例外があります。

詐欺・強迫・錯誤があった場合

だまされたり、脅されたり、重大な勘違いをしていた場合には、承認や放棄を無効に戻すことができます。

無能力者が単独で行った場合

未成年や被後見人が、必要な同意や許可を得ずに勝手に承認・放棄をした場合も、取り消すことが可能です。この場合も、家庭裁判所に申立てを行い、正しい手続きを経てやり直すことができます。

取消しにも期限があります

法律では、追認できるときから6か月以内、または承認・放棄から10年以内に行わなければ無効になります。この10年は除斥期間といって、過ぎてしまえばもう二度と取り消すことはできません。

民法124条
1. 取り消すことができる行為の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後にしなければ、その効力を生じない。
2. 次に掲げる場合には、前項の追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にすることを要しない。
 1. 法定代理人又は制限行為能力者の保佐人若しくは補助人が追認をするとき。
 2. 制限行為能力者(成年被後見人を除く。)が法定代理人、保佐人又は補助人の同意を得て追認をするとき。

相続の承認・放棄は、一度決めたら簡単にやり直せるものではありません。判断能力が不十分な方を守るため、一部の例外があります。
相続の判断に迷ったときや、判断能力に不安のある家族が相続人になったときには、司法書士などの専門家に相談してみることを検討してください。

本記事作成美馬克康司法書士・行政書士

はじめての相続《民法解説》は、掲載日時点における法令等に基づき解説しております。できるだけ最新の情報で掲載しておりますが、掲載後に法令の改正等があった場合はご容赦ください。

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